休むことがこわい人に、どんな言葉を、時間を贈れば、相手に届くのだろう。本や漫画、映画など。休むことができなかったあの時の自分に、差し出したいものはありますか?
そんな問いで、まずはわたくし「つる」のお話をしてきたこれまでの2回。
今回は、つる編最終回として、マグロだったあの頃から今までに効いたなあと思う本たちをご紹介します。
本でも誰かのスピーチでも、それ一つがあなたの背負っているものを完全に取り払ってくれるなんてことは、きっとない。
だけど、いくつもの言葉に触れて、わたしはいろんなわたしに出会えた。
仕事に集中していると、“働くモードのわたし”で過ごす時間ばかりになって、他にもいろんなわたしがいることを忘れてしまいそうになる。
どこかに光が当たればどこかは影になって、存在が薄くなっていく。
だから、定期的に、あちらのわたしをこちらのわたしを、光で照らす時間が必要。
そうしないと、わたしにはその面しかない、と思い込んでしまう。
ここで踏ん張らなければわたしには居場所がなくなってしまう、と力んでしまう。
集団の中で何か役割を持つ自分、の影に隠れた「わたし(たち)」を、迎えにいく。普段とは違う、言葉や脳みそや心を使ってみる。それが、わたしにとっての「回復系読書」。
休むのがこわいのなら、無理に立ち止まろうとせず、いつもと違うものを摂取してみる。するとそれが、いつの間にか休みになっている。
そう気づかせてくれたあらゆる本(詩集、エッセイ、小説、漫画、イラスト集、zine、図鑑などなど)の一部をみなさんにご紹介します。

光を照らすための本
・『はじめての短歌』(穂村弘 著 河出書房新社 2016)
こんなタイトルですが短歌の作り方の本ではなく。
わたしたちが使っている言葉には「生きる」言葉と「生きのびる」言葉があって、その違いや、それぞれが使われる場所、それぞれを使っているわたしたちについて、あれこれ書かれています。ちなみに、短歌に登場するのは前者。
・『海をあげる』(上間陽子 著 筑摩書房 2020)
あれ、いつの間に食べ物のお話から沖縄の基地の話に?となるくらい、全ての言葉が滑らかにつながっていて切れ目がない。いくつもの場面がフワワ〜ンと流れていく夢の世界にいるような、だけどそこに書かれていることはこの世界の話で。そんな本。
・『傷を愛せるか』(宮地尚子 著 筑摩書房 2022)
わたしが受けた傷を、確かにそこにあると、他でもないわたしが認識すること。平気なふりさえもすっ飛ばして、早急に“対処”し、なかったことにしないこと。いつもここに戻ってくる。傷を愛す練習を、ずーっとしています。
・『夫婦間における愛の適温』(向坂くじら 著 百万年書房 2023)
人と“向き合う”だけでなく、“すれ違う”方法も知っている。それがちゃんとできてこそ、誰かと共存できるのかもしれない。相手の意図することを全て受け止めなければ!と踏ん張るのではなく、自分が愛情だと思った部分だけ、都合よく受け取る。軽やか。
・『どんぐり』(オノ・ヨーコ 著 越膳こずえ 訳 河出書房新社 2015)
『友だちの怒鳴り散らす声を録音する。それを雪の日に埋める(音の作品 VIII 冬)』『望みを風に向かって囁く(願いごとの作品 V)』。自分、街、空、部屋、ダンス、地球など、いくつもの作品が詰まっている1冊。この本を介して、自分がいつもいる場所やいつも見ている風景と、新しい関係性を作ることができるように思う。決まった正解のない選択クイズもあるよ。
・『場末にて』(西尾勝彦 著 七月堂 2023)
京都の本屋さん・恵文社で買ってすぐに近くのカフェで読み、そこでボロボロ泣いた。この詩を読んで、なぜだか今までの自分が報われた気持ちになった。「見てくれている人がいたんだ」と力が抜けた。読むたびにどうして涙が出るのかわからないけれど、わからないままでいいんだと思う。
・漫画『赤髪の白雪姫』(あきづき空太 著 白泉社 2007〜)
とにかく、会話が美しい。相手を、自分とは異なる世界の見方を持っている“ひとりの人間”としてリスペクトしているのが、言葉の端々から伝わってくる。こういう親しさを持っていたい。完結したらまとめて大人買いするぞと決めて早8年、現在26巻が発売中です。
・『IMAGINARIUM』(junaida 著 BlueSheep 2022)
PLAY! MUSEUMでの展覧会で、思わず購入した図録。細かく細かく描き込まれた1枚を眺めていると、小学生の時に夢中になった絵本『ミッケ!』を思い出す。あの頃に比べて、一つのものをじっと見つめる時間がとても少なくなった。
海外旅行先で買ったzine・イラスト集・図鑑
・台湾・台中の本屋さんで:
『between the time/under the life we live』 by Han Yun Liang
「everything is in-between」をいつも心に留めているわたくし。この本の表紙にbetweenとあったので思わず手にとっていた。3冊セットで、何かと何かの間、何かの下にいる何か、が絵と文章で図鑑のように並ぶ。英語で書いてある文章は、なぜ読めているのか不思議になるくらい、文字とよべるギリギリのフォントで書かれている。お気に入りは、『BETWEEN LOVE AND PEACE, THERE IS A DOG』
・韓国・ソウルの本屋さんで:
『HANDMADE』 by 0.1
値段を見間違えていて、思っていた10倍したこちらの小さな本。100個の手の動きがスケッチされていて、これは何をしている時の手なんだろう……と想像をめぐらせながらパラパラとめくると気づけば30分がたっている。ジャバラ折りの豆本で、広げると巻物のようになるのもツボ。
・パリの美術館で:
『Fungarium』(ESTER GAYA 著 KATIE SCOTT イラスト CASTERMAN 2022)
色使いとイラストレーション&文章の配置が美しい、キノコ図鑑。キノコ柄の収集癖があるわたし、ミュージアムショップで見つけた瞬間に一目惚れ。心ときめく図鑑を眺める時間、めちゃくちゃおすすめです。出典を調べていたらなんとシリーズがあることが判明。陸の生き物、海の生き物、植物全般から人間の臓器(!)まで。新たな楽しみができました。