ごめんねわたし【「休んだほうがいい」と言われましても】#02

2024.3.16

誰かに何かを言われても、余計なお世話だと撥ねつけてしまうとき。ふと手に取った本やマンガを読んで、見て見ぬふりをしてきたことに素直に対峙できたりする。

わたしの場合は、はるな檸檬さんのマンガ、『ダルちゃん』①・②だった。
休まず頑張る自分すごい、から、休まず頑張るのは何のため、へ。
立ち止まることができたきっかけのひとつだ。

このマンガの主人公は、ダルダル星人のダルちゃん。誰にも“普通の人間”ではないと気づかれないように、周りの人たちのモノマネをして人前では丸山成美に擬態して生きている。嫌われず、変だと思われずに、この世界で生きていくために。

https://hanatsubaki.shiseido.com/jp/comic2/2228/

周りに合わせて擬態するのが上手になればなるほど、自分が本当は何を考えているのかわからなくなっていく。でもこれでいいんだ、間違ってない。与えられた役割に応えていれば、わたしにもこの世界に居場所があって、生きてていいんだと思える。違和感に蓋をして、自分にずっと言い聞かせている。

そんな姿を、はじめは他人事のように遠くから眺めていた。
なんだかつらそうだなあ、と。
でも、だんだんわたしの心もチクリと痛み出す。

ダルちゃんが同じ会社の人(サトウさん)から「他人に合わせてないで、もっと自分を大事にしなよ」というようなことを苦々しく言われて、反発するシーンがある。そこで、わたしはいつの間にかダルちゃんと一緒にキレていた。

あなたは誰かに認めてもらえないと安心できない、空っぽな人間だと言われたような気がしたから。これまでの生き方を否定された、とも思った。わたしは、自分が優秀で役に立つ人間だと周囲に証明し続ける以外に、生きていく方法がわからないのに。

だけど、どこかで気づいてもいる。

褒められても肩書きを手に入れても、全然満たされないこと。止まりたいけど方法がわからないこと。自分がときめくものをちゃんと知っていて、それを大事にできる人がほんとうは羨ましいこと。

自分は恵まれてる、幸せだと言い聞かせながら5年付き合った人のことを、3回目に子どもを堕した時にようやく“好きじゃない”と気づいたサトウさんの言葉が畳みかける。

『自分の本当の気持ちを知るって、実は一番難しいことなんじゃないかって思うのよ』『今の自分を否定したくなくて 自分で自分に嘘ついて』 

※1

目から鱗がポロリと落ちる。
見て見ぬふりしてきた本当の気持ちを口にすれば、今の自分も、これまでの頑張りも崩れ去ってしまうと思っていた。でもそれって、もしかしたら違うのかも。
思い切ってやってみる?うーん、まだちょっと怖い。

『生きていると 社会で生きているとね。私たちは 悲しいのに笑ったり 寂しいのにすましたり 悔しいのに平気な顔をして。自分のほんとうの気持ちを置いてけぼりにしちゃって だんだんと自分が何を考えているのかもわからなくなって』

※2

ダルちゃんを読んで、わたしも、わたしのことが知りたくなった。
だけど、何から始めていいのかわからなくて。
ご縁があって、北欧の教育機関フォルケホイスコーレをモデルにした、“人生の学校”へと赴いた。

そこでは何かを教えてもらうのではなくて、とにかく「どうしてあなたはそう思うの?」と問われた。
“みんな”もそうしている、“社会”の役に立つ人材になる。大きな流れに身を任せていると、これが正解なような気がしてくる。だけど、みんなって誰だろう。社会って、役に立つって、なんだろうね。

外側から持ってきた言葉で武装していたこれまでから、自分の言葉で内側を満たしていくこれからへ。スイッチが切り替わったように思う。

「ごめんね」、「今まで本当に頑張ってきたよね」。
もう、武装しなくてもいいのよ。
これまでの自分を迎えに行って、ハグをする。
深く息を吐いて、肩の力が抜けていく。

『私は 自分で自分をあたためることができる
自分で自分をだきしめることができる
それが 希望でなくてなんだろう』

※3

<引用元>
※1 はるな檸檬『ダルちゃん』① 61頁 2018
※2 はるな檸檬『ダルちゃん』① 90頁 2018
※3 はるな檸檬『ダルちゃん』② 97頁 2018

つる

ワークショップや本を作りながら、人間と肩書きのちょうどいい付き合い方を模索しています。興味のある分野は、美術教育、クィアスタディーズや言語哲学など。大学中の授業を好きに受講できる学部に所属しています。シュールなマンガや会話が美しいドラマ・映画が大好き。